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あるバイカーの悲しき幸せ

東京のベットタウンとも呼ばれる、とある小さな街

昔から地元に根付いた評判のいい焼き鳥屋があった

先代から続くその店は数年前に店舗を建て直し綺麗にリニューアルされ清潔感がクローズアップされていた

連日、地元の常連が集まりにぎやかさを欠いたことがないこの店

出す料理も当たり前だが絶品で、価格も安く庶民の憩いの場として選ばれている


そんなある日の出来事

隙間なく常連客が並ぶ店のカウンターに、どう見てもその場から浮いている男が一人

白髪交じりの束ねた長髪 手入れもまばらな髭 ドクロのシルバーアクセサリー多数

Tシャツの隙間からのぞく、あるいは手指に記されたタトゥー

その男以外の全ての者が関わりあいを拒否したい存在であった

しかし当の本人は周りのそんな空気さえ気付かずにいるのである


男は普段からそのようなスタイルで過ごしている

男は自らをバイカーと称した

男の仕事はシルバーアクセサリーの製造と販売

普段は一人工房にこもり、人と接触することもまずなかった


米製のバイク愛好家、いわゆるバイカーの集会(ミーティング)に自作シルバーアクセサリーを持ち込み販売をしている

ミーティングとは男のような容姿の者達がバイクで集まりキャンプをして一夜を過ごすイベントのようなものである

各地で開催されるバイカーミーティングだがその規模は大小かなりバラつきがある

3万人ものバイカー達が集まる大きなミーティングに参加した事もあった

ミーティングにやってくる者達は一般社会からドロップアウトした者も多くそのスタイルは個性的である

まず長髪とスキンヘッドの人口割合が異常に高く、両者で全体の8割を占めている

残り2割が金髪だったりモヒカンであったりアフロであったりといわゆる一般社会とは全く異次元の世界である

髭をたくわえた者は9割 残りの1割はほぼ女性バイカーだ

刺青、タトゥーを施している者は圧巻の99,9% 0,1%は見物に来た地元のおじさんか施設の管理人である

生活の糧となる仕事の職種は自由業5割 闇稼業4割 その他1割の大半は家事手伝いである

それが男のいる『バイカー』という世界なのだ

また、男の交友関係においても上記の割合が適合している

男の周りには髭を生やした全身刺青まみれのバイク愛好家だけであった

一般的にはかなり異質なこの世界が男の『日常』なのである


この世界の中では、男はほぼ標準的な人間であった

その世界で商いをしている事もあり、本人は自分を

『比較的温厚で誰とでも親しみやすい温和な性格 どちらかと言うとおとなしいタイプ』

と分析しているほどであった

なんなら首筋にタトゥーでも入れた方がバランスがよいとさえ思っているのである


男はそのバイカーだらけの日常と、一般市民が暮らすこの街との線引きが上手く出来ていないのである


焼き鳥屋の二代目店主はその男の1つ年上の先輩で、お互い20歳そこそこからの知り合いだった

二代目店主はバイカーの世界のことをよく知らない一般人である

店主は男のことを『なおちゃん』 男は店主を『ひでさん』と呼び合う事からもそれなりの付き合いをしてきた事が伺える

男は昔から洒落気と優しいところがある店主を兄のように慕っていた

また男は店主の奥さんとも同級生という繋がりもあった為、他人とは違う親近感があった


その日、男は最近手に入れたばかりの電子タバコを吹かしていた

まだ電子タバコが世に浸透していない頃の話である

たまたまバイカーの世界で流行りだしたのである

電子タバコを知らない人達からは『なにそれ?』と質問され、得意げに説明する事が日常であった

男の頭の中には電子タバコについて説明するひな形の文章がすでに出来上がっていた

しかし時には『それヤバいものなんじゃないの?』

と眉をひそめられる事も何度かあり、それに対して男は憤慨していた

ここでいう『ヤバい』とは非合法、犯罪という意味合いで、ドラッグの一種かと勘違いしての発言であった



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ひでさんは電子タバコを知らないだろうな 男はそう予想していた

当然この日も店主が電子タバコに何らかの反応を示すだろうと思っていた

電子タバコを説明するためのひな形はすでに男の手元に用意されていた

しかし店主は男の予想を的中させることはなく、繁盛している店を手際よく切り盛りしている

ほぼ満席状態の繁盛店だ ある程度仕方がないと男は理解を示していた

中々男の方を向いてくれない店主に自分から

『これ(電子タバコ)見てよ』 などとアピールするような外交的な性格ではない

忙しそうな中、時折店主から笑顔でのアイコンタクトがあり、男もまた笑顔で返す

ただそれだけで男は満足だった


結局男はその日、電子タバコを一節も語る事はなく店を後にしたがそれはもうどうでもよかった

星空を見上げながら人との繋がり、大げさに言えば絆と今を生きている事を実感し、

そこそこ幸せな気分で男は帰宅していった

往々にしてバイカーという種族はその他の人種と比較し、幸せを感じて生活をしていると言われている



一方で焼き鳥屋店主はというと

店の営業を終え、愛妻と愛娘が待つ家に帰宅していた

店主は疲れた表情を見せながら妻に語りかけるのだった


『今日なおちゃんが店に来てさ』

妻『ああ・・・うん』

『もう参ったよ アイツ店の中でドラッグ吸ってやがってさ』

妻『ええ?それって危険ドラッグみたいなやつ?』

『そんなんじゃなくてもっと凄いヤツ ぶっとい注射器みたいな器具持ってきてさ』

妻『ええ?で、どうなったの?』

『なんかやたらこっち見てニヤニヤ笑ってた もう恐くて話しかけれなかったよ』

妻『ちょっと危ないよ 出入り禁止とかに出来ないの?』

『それは・・・・・(沈黙)・・・・・・・・・・・』

妻『警察に相談するとか・・・』

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』


夫婦は昔からの知り合いである男に、家も家族も全て把握されている事に底知れぬ恐怖を感じていた

そして何の結論も出せないまま寝室の灯りを消したのだった


男と店主の間には120℃程の温度差があった



人間には表もあれば裏もあり、それぞれの価値観、常識が織り成す人間模様がある

例えばであるがこの電子タバコ 男ではなく身体の弱そうな少年が持っていたならば

『ああ、なんらかの医療器具なんだな』 と誰もが思う事でしょう

少なからず偏見の眼が男に向けられている事も事実なのです


皆さん この世には僅かですがバイカーという人種が存在するのです

日本各地に散らばって生息し文字通りバイクで移動し続けている為、どの地域にいても不思議な事ではありません

彼らは幸せを感じながら生活しています 

そしてその裏側で一般民間人の多くはバイカーに対し、不安や恐怖を抱えている事など知る由もありません





     あとがき

本文中に出てくるバイカーの世界観はフィクションです

しかしそれ以外の事象はほぼ実話から出来ています

主人公の男はすでにご承知の通り私自身です

一言のツイートで表現できてしまう出来事を第三者の目線で多角的に書いてみました

夫婦の会話は『もしかしたら』という空想で書いております

シリアスな表現だったかもしれませんが実際はそれほどの事ではありません

特に悪意や世間に対する不満などメッセージを書いているわけではありませんので

いつも通り笑って読んで頂ければ幸いです



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男シリーズ

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